そしていよいよ国境越え。自分の中のクライマックスだ。
出国手続きを終え、橋を渡る。
漢字に戸惑いながら所定の手続きを済ませ、中国を抜けたその先にはベトナムの門が見える。
中国門とベトナム門の間は緩衝地帯で、友好的な国ほどその距離が近い。中国とベトナムは同じ主義の国だから仲が良いのだろう。河を挟んで門と門が互いに向き合っている。そしていま自分は無国籍地帯を歩いている。
とりあえず橋の中心で両方の写真を撮ってベトナムに入った。後で知ったが、駅や国境は準軍事施設にあたり、撮影禁止にしている国もあるらしい…危うくフィルム没収になるところだった。
ベトナムの入国手続きは拍子抜けするほどあっさりと終わった。
蚊取り線香の缶をみて質問された他は特に問題はなく、どちらかというと手続きに協力してくれた感じだった。
ある程度、交渉の難航を予測していたので肩透かしを食ったようだった。
手続きを終えると、無数のバイクが待ち受けている。
「モートバイ?」
モーターバイクとオートバイが混ざっているのか。誰もがモートバイと声をかけてくる。中国を抜けて一番変わった点はこれかもしれない。少なくとも私のまわった場所にはバイクの群れは見当たらなかった。
とりあえず、始めに声をかけてきた男に「ハノイまで行きたい」と言うと、「4ドル」という。
ここは国境の街ラオカイ。ハノイは首都であり北ベトナムの中心だ。辺境の街から首都までの距離は当然かなり離れている。それが4ドル。安すぎるほど安い。
二つ返事でOKを出すと、彼は喜んで私のリュックを運び出した。
彼は鼻歌を歌いながらバイクを運転し、時に英語で話しかけてくる。中国人の無愛想ぶりとはまるで違う愛想の良さだ。橋を越えるとここまで変わるのか!
久しぶりの英語に戸惑いながらも、「言葉が通じる」という心地よさを次第に感じ始めていた。
国境から数分走ってついた先は小さな駅だった。男はここからハノイに行けるという。
確かにその通りだが、この距離で4ドルとは…
クレームを考えたが、OKを出してしまった自分の落ち度と、男の笑顔、サービスの良さからつい言い出すことができなかった。
ベトナムに来て初めての交渉、それは小さな敗北だった。
男はリュックを持って駅までついてきてくれた。
そして、ハノイまでの列車を一緒に探そうとしてくれているが、時刻表の見方が分からないのか、なかなか見つからない。
そんな時、一人の少年が声をかけてきた。
「次の列車は夜の出発だから、まだまだ時間がかかるよ。それに夜は危険だってパパが言ってた」
男と私は顔を見合わせ、それから少年を見た。
少年は男に何か話した。たぶん私を引き受けるということなのだろう。男は「良い旅を」と言って笑顔で去っていった。
結局バスを待つことにし、少年の親の店でコーラを飲みながら話をしていると、程なくしてバスはやってきた。
少年が交渉にあたる。
ハノイまで20ドルと少年が言う。まあ遠いからそんなもんだろう。OKを出す。
二回目の交渉は中くらいの敗北。
旅経験が少なく、相場が分からないうちは敗北したことにすら気づかないのだが、まさにこれはその典型例だった。
…そして雷雲は徐々に近づいてくる。
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国境越えの日3~アホい稲妻~(ラオカイ~ハノイ間)
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ベトナム・目次
ベトナム国境。
この国は駅を載せて良いのか悪いのか…?分からないので載せてみた。