カンボジアからラオスへの国境越えは情報がない分、手ごわそうだ。
しかし、国境越えのキーとなる地点がストゥントレンだということが分かっただけでも助かった。
そこでストゥントレンについて調べてみる。
幸いこの街の周辺はポルポト派の残存勢力がいるわけでもなさそうだ。治安が悪い場所というわけでもないらしい。単に知られていないだけのようだ。
ならば、行ける。
そう判断すると、さっそくラオス大使館へビザを取りに行く事にした。
ラオス大使館はサダゲストハウスから少し離れた場所にあるが、歩いていけない場所ではない。
サダでもビザ手続きの代行をしてくれていたが、手続きは自分でやった方が面白い。
強い日差しの中、ダラダラと汗を流しながら街を歩き続ける。
しばらく歩くとラオス大使館が見えてきた。しかし扉は閉まっている。休憩なのだろうか?
開館時間と自分の時計を見比べてみると、午後の開館時間まであと一時間ある。ちょうど昼休みに来てしまったらしい。
一時間という時間。
それは戻るにも待つにも中途半端な時間だ。
「何で昼過ぎてるのに閉まってるんだ!」
そう怒りたくもなるが、大使館の性質上そんなのは特別珍しい事ではなく、ただ単に開館時間を調べないで来てしまった自分に落ち度があっただけのことだ。
仕方ないので、道を挟んだ木の陰で待つことにした。近くの店で買った飲み物をちびちび飲んでいれば、一時間なんてきっとすぐに過ぎてしまうはずだ。
…そのつもりが、うっかり短時間で飲み終えてしまった。喉の渇きがそうさせてしまった。
飲み終えてしまうとその後の待ち時間は急に長く感じる。
いくら木陰といっても、日差しは道路に降り注ぎ乱反射する。
椅子もない場所で立ち続けているうち、次第に汗がふき出してきた。
汗を拭きながら木陰でじっと待っていると、やがて大使館から人が出てきた。といってもまだ午後の部が始まる時間ではない。きっと買い出しにでも行くところなのだろう。どうやら出てきた人は警備員のようだった。
彼は私の方をじっと見ながら、やがてまた大使館の中へ戻っていった。そしてまた、すぐに出てくると私にこう言った。
「ビザか?」
うなずくと、警備員は「ちょっと待ってろ」と大使館の中へ戻り、再び出てきた。
「今、大使館を開けてやるからすぐこっちに来い」
???
開館時間を早めてくれるというのか?
普通の大使館では考えられないことだ。ラオスは親切な国として有名だが、大使館の人たちも親切なのか。時計を見ると開館時間までまだ30分以上ある。思いがけない待遇だ。
大使館の裏口から入ると、気さくな感じの人たちが申請用紙を持って待っている。
用紙に必要事項を書き込み申請費用を支払うと、大使館員はビザ発給の日時を詳しく教えてくれた。
「早く来ても閉まってるから時間には注意しろよ」
別れ際にこんなアドバイスもしてくれる。
大使館員らしからぬ気さくさに戸惑いつつも感謝しながらサダに戻った。
そして、ビザ発給の日。
教えられた時間通りに大使館へ行くと、何と大使館の前で大使館員が私の到着を待っていた。そして笑いながらこう言った。
「今日は遅かったな。この前みたいに早く着いてるかと思ってたよ」
人が良いことで有名な国、ラオス。
この国は大使館員さえも親切だった。
未知の国への期待とともに大使館員と握手を交わした。
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破壊された大使館(プノンペン)
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